大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6501号 判決
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〔判決理由〕そこで右寄託金返還請求権の弁済期につき考察する。
二(一) 原告の被告に対する請求権は債権差押転付命令にもとづくものであるからその弁済期については、右命令の債務者である訴外人と第三債務者である被告との間でなされた約定に従つて判断さるべきである。
(二) まず、不渡処分回避のための異議申立とは、手形または小切手を不渡返還した銀行(以下返還銀行という。本件においては被告信用組合大阪興銀)がその手形または小切手額面相当の金員を手形交換所に提供して、持出銀行(本件においては訴外三和銀行)の不渡届による不渡処分の猶予を求める制度であるが、この制度にもとづく異議申立提供金は、返還銀行が自己の名で交換所規則にもとづき手形交換所に提供するものであつて、支払義務者(本件においては訴外藤原幸夫)の代理人または使者として提供するものではない。これは、手形交換所規則が交換所と加盟銀行の内部関係を規律する規則であること、および右規則には、提供金授受の当事者は、交換所と加盟銀行である旨が定められているところから明らかである。そしてそれは本件におけるように、返還銀行が手形交換所に異議申立金を提供するに際し、支払義務者から同額の金員の寄託を受けている場合でも同様である。
(三) かくして、本件において訴外人の被告に対する寄託金返還請求権と、被告の手形交換所に対する異議申立提供金返還請求権との間には経済的関連性があることは格別、法的関連性(因果関係)はない。このことから、訴外人と被告とが締結した、異議申立金の提供に関する契約は、(1)被告が、不渡処分事由発生後、訴外人をして手形交換所に対し手形不渡処分をまぬがれしめるために手形金相当額の金員を提供し、更に不渡処分事由の解消後、右金員の返還をうけるために必要な諸行為をなすことを目的とする委任契約の部分と、(2)訴外人が、被告の右委任事務遂行に要した費用を訴外人に対し請求する権利を担保する目的をもつて同額の金員を被告に対し寄託する消費寄託契約の部分とに分けることができる。そして右消費寄託契約にもとづく訴外人の被告に対する寄託金返還請求権は不渡処分事由の解消後、被告が手形交換所から提供金の返還をうけることが可能になること、より正確には、不渡処分事由の解消後、持出銀行から被告に対し不渡処分取止め請求書が送達されたことを停止条件とするものと認めるのを相当とする。けだしこれによつてのみ被告は手形交換所に対し現実に提供金の返還を請求することが出来、右金員相当額を委任事務費用として訴外人に対し請求する必要がなくなり前示金員寄託の目的は到達せられて消滅するに至るからである。
三、ところで、訴状請求原因によれば、大阪地方裁判所が、昭和四二年一月一七日および同年一〇月五日に原告の申請により原告のためになした差押、転付命令の被差押転付債権は、「訴外人が被告に対し不渡処分回避のため社団法人大阪銀行協会大阪手形交換所に提供する目的で被告に寄託(消費寄託)し、被告が同交換所から返還を受けた際行使しうる訴外人の被告に対する寄託金返還請求権であるというのである。この請求権が停止条件付であるという原告の主張は正当であるが、該条件が被告において手形交換所から金員の返還を受けることにより成就するという原告の主張は以上の推論に照らして失当といわなければならない。蓋し被告が手形交換所から金員の返還を受けるためには持出銀行である訴外三和銀行の不渡処分取止め請求書を被告が受領した後、右請求書に、被告の保管する預り証、および被告の作成する異議申立提供金返還請求書を添えて手形交換所に申請する手続が必要であるところ、右手続の履行は一に被告の意思にかかるものであつて、これを条件とすることは、厳密な意味における条件の性質に反するからである(民法第一三四条)
四、かくして、訴外人の被告に対する停止条件つき返還請求権は、訴外三和銀行生野支店が、不渡処分取止め請求書を被告に対し送達した昭和四二年一一月一七日に条件成就したが、ここで、この請求権について直ちに弁済期が到来するのではなく、更に被告が右にのべた返還手続を手形交換所に対しなすために必要な相当の期間が経過することを要するものと解するのが相当である。けだし、既に述べた如く、被告が現実に手形交換所から提供金の返還を受けることは、訴外人の被告に対する返還請求権成立の停止条件たりえないこと前説明のとおりであるが当事者の実質的な計算関係をみれば、被告が訴外人に対する寄託金の返還行為を実現するためには、手形交換所からの提供金の現実の返還を必要とするからである。
五、以上、本件において訴外三和銀行生野支店作成の不渡処分取止め請求書が昭和四二年一一月一七日被告に送達されそれより相当期間を経過したものと認められる昭和四二年一一月二七日に原告の被告に対する請求権の弁済期が到来したことは明らかである。(日野達蔵)